第9話 地獄からの生還、日常

針宮さんが卒業旅行から帰ったその足で銀行に行き、助成金がはいるまでのつなぎのお金を借りられるようにしてもらった。銀行の担当者を前にした針宮さんは頼もしくて、その辺はさすがと言ってもよいのだけれど。針宮さん、中小企業診断士としてはまだ未熟な…

第8話 お金がない!

中小企業診断士の針宮さんに言いつけられたとおり、僕はタピオカ屋開店前に予行演習している。もう少しでお店をはじめるかと思うとワクワクしてきた。 店内は改装されてシックかつパステル調のやわらかな雰囲気になっている。 歩きながらだって楽しめるタピ…

第7話 朝食抜きと、なんでも聞いてくれ

お金をもらうのは簡単ではない。ましてそれが税金となるとなおさらだ。 中小企業診断士の針宮さんから指導を受けつつ必要な書類をお役所に提出した。商店街にお店を出すための助成金の申請書一式だ。 書類審査があって通過したとの連絡があったのだけど、つ…

第6話 ふつつかものですが……

「父さん、母さん。こちら、中小企業診断士の針宮さんです」「針宮沙羅です。お世話になります」 針宮さんが頭を下げる。僕はとなりで真面目くさった顔をしているつもり。 向かいにすわっている父さんと母さんは針宮さんを凝視。両親は開店前で、板前と女将…

第5話 ネーミング・センス

お役所と言うところは、どうも落ち着かない。ざわざわしているわりに、うるさいってわけでもない。広い空間のわりに、机だの人だのがひしめいてごちゃごちゃしている。 中小企業診断士の針宮さんに連れられてきたのは、お役所と言っても中小企業振興公社とい…

第4話 クリームソーダの思い出

空き店舗のシャッターをあげ、カギを開けて中へ入る。「もとは喫茶店だったんですよ」 見ればわかる。テーブルにイスがあげてあるけれど、テーブル席にカウンターに、その奥のコーヒーなんかを淹れるところ、さらに厨房が奥にあるのだろう。「喫茶店のオーナ…

第3話 とある商店街の空き店舗へ

待ち合わせ場所につくと針宮さんはすでにそこに立っていて、さあ行きましょうと言った。到着早々せわしない。 針宮さんと出会ったのは昨日のことだ。親の日本料理屋の前でタピオカドリンクを売っているところにやってきた。それで僕に店を出せとせっついてき…

第2話 お店を出しましょう!

場所を日本料理屋の方に移して僕は今、中小企業診断士針宮沙羅と対峙している。 なぜそうなったかというと、こんなことがあった。 座について僕がお茶を前に置いたとき、女の子は針宮沙羅と名乗った。「お茶、どうぞ」「ありがとうございます」 お茶を勧める…

第1話 キミなにもの? シンダンシですっ!

やりにくい。とてもやりにくい。「はい、お待たせしました」 僕は目の前のお客さんにタピオカドリンクのカップを渡す。視界の端には、やりにくさの正体が……。 二十歳くらいだろう女の子が、さっきからこちらをじっと見つめているのだ。僕のことを見つめてい…